置き場

slipknotのコリィ太った? https://twitter.com/voru_vox

Piece of Space

その1、この文章はTwitterのフォロワー向けなので、何も知らない人が読んでも何も面白くないです。フォロワーが読んでも面白くないです。

 

その2、POS DT-1というギターエフェクターを知らないと何も面白くないです。知っていても面白くないです。

 

その3、最後まで気づかないかもしれませんが、この話は全部嘘です。

 

「Piece of Space」

 

 津野という科学者がいた。彼は「POS DT-1」という、バイパスで原音が著しく劣化するギターのエフェクターを直列で8台以上繋ぐと音が消えるという現象を発見し、それはPOSそのものが周囲のエネルギーと音を吸収しており、時空間を超えた物理量の増減や、新たな熱力学法則の可能性を提示しているとして論文を発表、ノーベル物理学賞を受賞した。その後彼はPOSがブラックホールダークマターの研究に活用できると考え、数百台のPOSを用いた実験により人類で初めてタキオンを検出、その地位と名声をより確固たるものとした。そこで更に津野は私財を使い、高速加速POS炉「POSオカンデ」を建設した。これを用いたブラックホールの生成と制御により、宇宙創造の成り立ちと重力と時間の関係の解明を行おうとしたのだ。
 

 アメリカ・アリゾナ州のウルフクロッシングの地下300mの深さに建設されたPOSオカンデは全長12kmの円を描き、そこには8万台のPOSが直列に繋がれている。ここに電気信号を流す事により炉を起動、ブラックホールの再現を行おうとした。計算上では生成されたブラックホールは約4*10^-8秒のみ存在でき、エネルギー自体も小さく大きな影響は及ぼさないとされていた。その後は継続的な実験により生成時間と制御を確実なものとし、より深い宇宙の真理を知る研究へと繋げる計画であった。

 

 記念すべきPOSオカンデ稼働初日、その最初の出力は津野の旧知の友人、世界的ジェントバンド「Soap Sekkyo」のギタリスト「TOSHI-KI」が務める事となった。彼はPOSオカンデから延長されたケーブルを相棒のジャガーに挿し、おもむろに業務用消毒液を口に含んだ。それを天井に向かって細かい霧のように勢いよく吹き出すと同時に、激しくギターをかき鳴らした。デビューソング「Magic Suck it You」のイントロである。重低音が施設内に鳴り響き、それはシールドを伝いPOSのインプットから内部の回路を通り、アウトプットへと押し出され新たなPOSへと注ぎ込まれる。誰しもが一度は耳にした事のある、全世界のチャートを総ナメしたこの地球上でもっとも有名な曲。研究者たちも一瞬職務を忘れ、その音に聴き入ってしまうほどだった。そして、その贅沢な生演奏の数秒は人類にとって神から授けられた最期の一大イベントだったのだろう。津野も、他の研究者も、TOSHI-KIにとっても予想外の事が起きたのだ。

 

 TOSHI-KIのギターは特注であった。ボディは廃校になった私立の名門女子高の体育館に張られていた床板を使い、ネック美人巫女による口噛み酒が有名な神社が移転するときに伐採された松を使用、そしてピックアップは弦一本一本にそれぞれ対応し、独立したアウトプットが可能な特殊仕様であった。これらの様々な特殊条件が重なりあい、POSオカンデは全く想定していない挙動を取った。

 

 確かにブラックホールは現れた。しかし、それが遥かにちっぽけな現象と切り捨てられる程の神秘が同時に発生したのだ。TOSHI-KIの演奏とギターによって出力されたエネルギーは異常な増幅を繰り返し、POSの回路の中に直近の過去、現在、未来の時間という概念と、可能性により分岐し無限に存在する並行世界が同一次元上に現れた。具体的な現象で言えば―そう、全ての並行世界のPOS、その並行世界の過去、現在、未来の時間軸に存在が確定されているPOS全てが同一空間上に顕現したのだ。それはあまりにも一瞬の出来事、人間が知覚することができない程一瞬の出来事であり、何が起こったか理解できた者は誰もいないだろう。人間の常識という概念がいとも簡単に崩壊するほどの無尽蔵のPOSは一瞬にして月を巻き込みながら地球を粉砕。イベントの始まりから終わり、僅か0.2秒にしてその質量は太陽の約30倍以上にもなった。こうして人類は、誰一人そうと知る事もなく、自らを産み出した母なる大地と共に滅亡した。直後にその大質量のPOSは自らの密度に耐えきれず崩壊、凝縮し、更にその中心では核融合反応によりPOS達は鉄原子へと変貌、重力収縮が始まった。POS由来の鉄原子の温度は100億度を超え、ガンマ線による原子の崩壊が始まった。これにより、中心付近の高まっていた圧力は急速に低下、重力崩壊を起こしPOSで出来た星はついに超新星爆発を起こした。太陽系を様々な光線を含んだ色彩豊かな眩い閃光が包む。もし人類がそれを観測できていたならば、人類が今まで経験してきた全ての事象の中で最も美しい光景になったに違いないだろう。外殻に存在した「かつてPOSだった物質」の多くは超新星爆発で吹き飛ばされたが、中心に残った圧縮された中性子は重力崩壊が止まることなく圧縮され続け、それは光をも逃がさぬ「POSブラックホール」となった。

 

 -それからどれだけの時が経ったのだろうか。それは地球が生まれ、命が誕生し、そして人類が滅亡するだけの時間を何万回と繰り返す事ができるだけの途方もない年数。太陽系はPOSブラックホール発生時の超新星爆発により消滅、超新星爆発のエネルギーが完全に失われた後は付近を通る光を捻じ曲げ、時に吸収しながら銀河系に影を落としていた。今は宇宙の膨張により宇宙空間全体の星の密度は下がり、ブラックホールが存在しない場所であってもところどころに恒星の眩い光が散見されるような状態だ。だが、永遠は存在しない。POSブラックホールはホーキング輻射により確実にエネルギーを喪失していた。
 

 ついにPOSブラックホールは消滅した。ある一定のエネルギーの放出量を超えると、その喪失は加速度的に進み、最後はただ熱量という概念のみが残る空間となった。しかし、果たして本当にそうだろうか。一見虚無が広がる空間のその中心に、我々が良く知るそれがあるだろう。もし人がそれを観測できるならば、間違いなく「奇跡」と呼称するであろう現象。中性子レベルまで崩壊しているはずのそれが、複雑で、ある種意図的であると言える元の形を再び取るなどという事は、バラバラにした懐中時計を瓶に詰め、それを一振りしただけで全く元通りに組み直される天文学的確率すらも比較に出すのが馬鹿らしいほどありえない事だった。しかし、それは確かにそこにある。かつて地球が存在したその中心に、一個のPOS DT-1が、寸分違わず人類が創り出した物と同じものが、遥か彼方の恒星の明かりに照らされそこに浮かび上がった。

 

 -ギターの機材として作られ、酷評されたPOSは作り手の思想を大きく離れ、一人の科学者と一人のギタリストによって宇宙の真理を探究する為に使用され、全く想定することのなかった偉大なる結末を迎えたのだった。人類は果たして宇宙の真理を知ることはなかった。しかし、これはある意味で、地球のリソースを食い潰し滅亡を避ける事の出来ない人類の為すべき姿だったのかもしれない。「POS DT-1」は間違いなく、誰も傷付けることのない、宇宙に漂う人類が存在した証明のたった一つの欠片となったのだ。

 

 

 

 

はい、話は終わり。もう寝ていいよ。