置き場

slipknotのコリィ太った? https://twitter.com/voru_vox

「ピチップ」という製品に対するレクストおよびピエール中野氏の発言の是非

  1. ピチップ
  2. 「音質向上」と音質
  3. 音質向上の根拠となる「不要な微振動の制振」
  4. データの所在?
  5. 終わりに
 
注:本記事は記事作成者個人の考えであり、特定の複数人や特定の集団を代表した意見ではありません。
 

 

1.ピチップ
 

 2020年3月18日水曜日、午後12時にとある製品が予約受付を開始した。

http://www.reqst.com/rcpn_p200218.html

 株式会社レクストから発売されている「レゾナンス・チップ」と呼ばれる商品は、販売元のレクストの記載する理論によれば「制振(振動を抑える)対象に対して、付加振動=動吸振器を取り付けることで、制振対象と動吸振器の共振振動数が同調し、共振振動数付近で制振」(上記URLより引用)するのだそうだ。そして、今回予約開始した「ピチップ」と呼ばれる物は日本のロックバンド「凛として時雨」のドラマーであるピエール中野氏がプロデュースした製品だという事である。

この商品が発表され、一部の人の間では問題提起が行われた。それは、ピチップ(およびレゾナンス・チップ)の商品ページにある記載内容についてであったと認識している。

 

 

2.「音質向上」と音質

 

 製品ページには「音楽が活き活きと鳴り出す音質向上効果が得られます」と記載されている。ここで特に注目していただきたいのは「音質向上」という文言である。音質という概念の考え方は難しい。日常生活では目に見える数値化が難しい「音」という感覚において、それは主観による部分が大部分を占めるだろう。味覚という感覚で100人いれば100人の味の好き嫌いや好物があるように、聴覚、音の趣向というのも個々人の好みや主観による評価が大きい部分である。イヤホンやヘッドホンでも、様々なメーカーが消費者の趣向に合わせ、様々なニーズに特化した商品を多数出している点からも十分納得していただける部分だろう。ただし、日常的な価値判断が主観に偏りがちな「音」という感覚であるオーディオ製品であっても、実際に製品を販売するオーディオメーカーなどは製品の品質を保証し、消費者にいらぬ誤解を与えないように定量的なデータを収集しそれを根拠に商品スペックや商品の特徴をPRする。「定量的」とは「状況や変化を数値化する」という事であり、これは客観的に物事を判断する場合に有力なデータを作りやすい。それは音響に関わる話として具体例をあげれば、製品に実際流れる電流や電圧の測定実験、剛性実験、「周波数特性」のように各周波数の明確な差異が数値的、視覚的に判別できるデータを用いて比較検証するもの等がある。それらを製品スペックとして充分であると言えるほど記載し、そこでようやく実際の音質であったり、商品の使用感等の最終的な価値判断を消費者に委ねるわけである。

 

 

3.音質向上の根拠となる「不要な微振動の制振」

 

 話を戻そう。「向上」とは「よりよい方向、すぐれた状態に向かうこと」という意味がある。つまり、向上という文言を使う以上はそれが現状に比較して優れた状態になる事を意味する。ピチップの製品ページには「不要な微振動を、ピチップが逃がすように制振」と記載してある。つまり、レクストが言う向上とは「不要な微振動を制振」することであるだろう。さらに別部分ではピエール中野氏のコメントとして「解像度の向上、全体域の音質整理、情報量の増加、そして、何より高域が澄み渡る美しい音を奏でるようになった」としている。

 

 レゾナンス・チップ及びピチップは「不要な微振動を制振する」対象となる製品を特定していない。あくまで「イヤホン/ヘッドホン」の表記に留まっている。つまり、自社製品であろうが他社製品であろうがこのピチップを装着すれば「不要な微振動」をこの製品で制御して「音質を向上」し、ピエール中野氏のコメントのような効果を与えることができる。製品ページの記載から、少なくとも自分にはそういう意味の商品解説であると捉えさせていただいた。(これに異論がある方は是非とも意見を寄越していただきたいと考えます)2020年3月19日現在、「商品の効果やそれの体感には個人差があります」や「装着する機材によっては効果が得られない場合があります」等の表記も商品ページからは見つけることはできなかった。(「※弊社でも、ピチップ使用に関して生ずる損害・クレームには一切の責任を負いかねますのでご了承下さい。」という文言があるが、「弊社でも」とあるようにこれは上記の「ピチップの貼り付けで生じた故障や破損、傷、塗装の剥がれなどの問題は、すべてイヤホン/ヘッドホン本体のメーカー保証対象外になります」にかかっている文章であると判断されるので除外した。余談だが、クレスト以外の商品にピチップを装着し、なんらかの障害が発生した場合に他社商品がそれをメーカー保証対象外にするかどうかをクレスト側が勝手に判断するのもおかしな話である。)

 

 「不要な微振動」はレクスト及びピエール中野氏側の判断であって、それを他社商品に使用するならばその定義が一概に該当するとは言い切れないだろう。他社製品に使用した際に、レクストの言う「不要な微振動」が、他社製品が想定した振動であり、それが設計者の意図を大きく損なう事も考えられる。それは果たして、商品を売る側が一口に「音質向上」と言い切ってしまってよいものなのだろうか。製品の文言が自社製品のみに向けてならまだしも、これでは他社製品にも「レクストが想定しているものと同じ不要な微振動がある」と断言し、それをピチップが改善できると断言するような言い回しではないだろうか。それともやはり、レクストはそうであると考えているのだろうか。

 レクストが不要な微振動と捉えている部分が、ある消費者にとっては音楽を楽しむうえでむしろ心地よいニュアンスを生み出す部分であるならば、それは「音質向上」とは呼べないだろう。千差万別である趣向の良し悪しはやはり単純に断言していいものではない。それくらい、「音質向上」のみの文言を使うということは、製品ページを読む者に様々な誤解(であるならばいいのだが)を招かせてしまう大きな因子になりうる。

 

 

4.データの所在?

 

 この問題提起を解決する手段はいたって簡単だろう。実際にレクストが「定量的」で「客観的判断」に足りうるデータを公表する事だ。それは前述の「周波数特性」のグラフであったり、特定の周波数の比較数値であったり、提示方法は様々だろう。

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https://twitter.com/Pinakano/status/1239817313907380224?s=20


 しかし、現在自分の知りうる限りではレクスト側からそれらの具体的なデータは示されておらず、ピエール中野氏はTwitterで「波形データが無い」と答えており、さらに同一のpostの中で「データに関しても測定可能か探っています」と発言している。これらが果たして(レクストまたはピエール中野氏側で)「企業秘密であるため公表できるデータが無い」のか「データそのものを取っていない」のか、どちらなのか自分の方から断言することはできないが、言い回しから考えると、少なくとも「レクスト側のデータの有無にかかわらず、ピエール中野氏はデータを把握していない」と捉えるのが自然であると考える。

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https://twitter.com/Pinakano/status/1240046610727333889?s=20

 さらに氏はTwitterで「データに基づく根拠が無いのであれば不要と考えるならそれで良いと思います」とも発言した。つまり、一連のSNS上でのピエール中野氏のピチップの効果に関連する発言や、さらには製品ページのピエール中野氏のコメントも含め全て「データに基づかない主観的な評価」であり、ピエール中野氏が製品の品質を保障するわけでもなく、今まで製品ページを変更することも無かったレクスト側も同一の認識であると判断できてしまう。
 「データに基づく根拠が無いのであれば不要と考えるならそれで良いと思います」というような発言は、品質をデータで充分担保できるオーディオ製品をプロデュースする側の意見としてはあまりにも責任を放棄しているのでは?と自分は考えるし、それを是とするレクストもオーディオ製品を売る側として誠実性を欠いてしまっているのではないだろうかと思えてしまう。

 

 

5.終わりに

 

 現在ピエール中野氏には、氏の一連の発言や「アンチ」と呼ぶ相手に対する対応の是非がファンの中からも痛烈に批判される事態が起きている。LINEオープンチャットで特定人物のTwitterでのpostを晒上げるような行為をしたり、普段なら氏は他者からの意見にリプライだけで済ませているにも関わらず、Twitterでの言動に疑問を持ち意見をした相手のpostを引用RTし自身のフォロワーに周知させる等の行為が目に余る。本人はこれを見て個人攻撃をしないようにと言っているが、そもそもオープンチャットでの晒し行為や引用RTをむやみにおこなわなければそのような個人攻撃は発生しないわけで、それを認識してか知らずか、どちらにしろこのような行為はSNSの運用方法としては到底褒められたものではない。それら諸問題がある中で、ピチップという商品は予約を開始し、一連の疑問に対してもレクストと共に納得するには遠いと感じてしまうような対応のまま今に至っている。

 

 何かの製品を立案し、作成し、そして実際に販売するという行為は途方もない努力とリソースを割いてやっと実現されるものだ。レクストが今回販売するピチップも間違いなくそうだろう。であるならば、やはりいらぬ誤解を生むような要素や事態はもっと早い段階で除外するべきであったし、そうできたように思える。とても良い商品であっても、PR展開や僅かな認識の違いで意図せずその価値を簡単に損なってしまう事は少なくない。結果として、売り手側、買い手側ともに不必要な損害を被ってしまう悲しい事に繋がる。

 自分個人としては、ピエール中野氏とレクストには、売る側としての責任と根拠を伴う必要性の認識を持ってもらい、一連の商品に関する「煙のように掴めずふわふわと宙を漂っているかのような製品紹介」と自分が書き連ねたような「不毛な問題提起」に収束の一手を打ってもらいたい、と切に願う。